院試に向けての勉強をしていたときはちょうど8月くらいだった。
真夏の最中。当然、毎日は茹だるように暑かった。
その当時、私が暮らしていた実家で、私の部屋にクーラーというものは無かった。
だからその自室で扇風機を回して、数学や物理の過去問をひたすら解いていた。
だけどどうしてもその暑さに我慢ができないときは、タオルを水に濡らしてそれを首の周りに巻く。冷たい水で、首を走る血流を冷やすためだった。それに、タオルに扇風機の風が当たって気化熱として熱を奪ってくれるので、一時的には涼しさを感じることができた。ただ、すぐにタオルは温くなってしまい、何度も何度も洗面所でそのタオルを水に浸し直す必要があった。
それでも、私の自室は南側を向いており、午後西陽が差し込む部屋は殺人的に暑かった。
そんなときに、
「大学の図書室で勉強をするのはどうだろうか」
と考えた。
図書室の中は、当然のようにクーラーが効いている。
その当時私が通ってた大学のキャンパスは、自宅から片道1時間以上がかかるような距離にあった。
だけど、その往復の時間を考えても、「涼しい場所で勉強する」ということの方がメリットがあるのではないのか。それに、図書室の中にも勉強している学生はたくさんいるはずなので、彼らに混じって勉強することで、それが外部強制装置として機能してより勉強に集中できるのではないのか。そのように考えたのだ。
私は夏休みで大学の授業はない中、大学に行くことにした。
8月の午前の電車に乗って、キャンパスに向かう。
図書室はやはり、同じように院試に向けての勉強をしている学生で溢れかえっていた。
午前中の早い時間に家を出たので何とか席を確保することができたが、午前の遅い時間になると、その席もほぼ埋まっていた。勉強しやすい机、勉強しにくい机があって、空間的にゆとりのある席は学生にも人気だった。その席を逃してしまうと、混み合ったところで勉強をしなければならなかった。そうなると、ストレスを感じながらその日一日を過ごすことになる。
私は、数回その図書室に通っただけで、図書室に行くことをやめた。
椅子取りゲームをしながら勉強をするのは、うんざりだった。