引越し当日、朝早くに引越し業者が厚木の家にやってきた。
私は新居に運び入れる荷物をその業者に指示する。
引越し業者の担当は二人連れでやってきていて、彼らは手際よく荷物をトラックに運び入れていった。荷物はそれほど多くはなく、30分くらいで積み込みは終わった。
私は引越し業者のトラックを見送り、何も荷物が置かれていない伽藍とした部屋に一人取り残された。
実家を出てこの場所で一人暮らしを開始したのが2010年1月。
そして転職と共にこの場所を出るのが2018年8月。
約8年半の間、私はこの場所で暮らしていたのだ。
その間は企業Aでずっと働いていたのだけど、その8年半は本当に苦しい8年半だった。途中、退職願をカバンに忍ばせて毎日会社に出社した時期もあった。また、ある事件があって、同じマンション内で急遽別の部屋に引っ越すということもあった。その時も、本当に苦しかった。
その苦しみの日々を思い出すようにして、その空っぽの部屋を一人見つめていた。
その日は両親も引越しを手伝ってくれるということで、その厚木の家にやってきてくれることになっていた。
引越し業者が荷物を運び出してからしばらくして両親は車でその厚木の家にやってきた。
私は、ガスの停止処理の立ち合いをお願いして、私自身はそのまま厚木の家を後にした。川崎の新居に向かう予定だった。
電車を乗り継ぎ、その新居に向かう途中、電車の車窓から住宅街の街並みを眺めながら、これから私に待っている日々を一人想像する。
これから先、私にはどのような道が続くのだろうか。
はっきり言ってよくわからなかった。
少なくともこれまでの企業Aにおける苦しみは、「転職」という方法を使うことで逃れることができた。だけど、これからはまた全く新しい人間関係を一から築いていかなければならないのだ。そして同じように毎日製品開発の仕事を続けなければならないのだ。
私の先に続く道。
その道は、少なくともその時の私には、あまりワクワクするものには見えなかった。