ザ・ノンフィクション
「私のママが決めたこと〜命と向き合った家族の記録〜」
癌が全身に転移したマユミさん(44)は、スイスで安楽死することを自分自身で決める。
安楽死を行うためにスイスに向かう、その空港での様子が番組では流されていた。
スイスには自身と夫の二人で向かい、二人の娘は日本に残ることになっていた。
チェックインゲートの前。
マユミさんと夫、そして長女(18)と次女(12)がいる。
マユミさんは末期癌とは言え、普通に会話をすることもできるし、外目からは普通の人と変わらない。
娘に何か話しておくことはないのか、夫に促されて、マユミさんは少しぎこちない口調で、二人の娘に、
「何とでもなるから、好きなように生きたらいいと思います」
と話した。
二人の娘も同じようにぎこちない口調で、ぼそぼそと言葉を返す。
そして二人の娘と別れ、夫と空港のチェックインゲートに向かった。
何気ない会話だった。
だけど、その会話が、母と娘の今生で最後の会話でもあった。
普通の人にとって、死はいつ訪れるか分からない。
だけど、マユミさんにはその「死の日にち」が明確に決まっている。
普通の人にとっては、いつが今生で最後の会話かなんて分からない。
だけど、マユミさんと二人の娘にはそれがはっきりと分かっていた。
空港でのこの会話が、本当に最後の会話だった。
マユミさんがチェックインゲートの向こうに消えて姿が見えなくなると、二人の娘は後ろを向き、泣いていた。
もう二度と自分は、母親とは会えない。
ゲートの中に消えていく母親の背中を見て、その事実に改めて気づかされたのだろうか。