「左下の親知らずは歯茎に埋もれるようになってしまっていて、ここでは抜くことができないので、口腔外科で抜いて貰う必要があります」
歯医者はそのように私に告げた。
口腔外科。
その「外科」という響きに何か重たいものを感じて、少し背筋が寒くなるような思いを抱いた。
「この歯科医院と提携している病院が二つあるので、そのどちらかに紹介状を書きます。一つは一駅隣にある大学病院で、もう一つは駅からバスで行くことのできる病院です。どちらがいいですか?」
そのように尋ねられても、私にもどちらがいいのかなんてわかるわけがない。なので、私は歯科医師に、
「どちらのほうがおすすめとかありますか?」
と逆に問い返した。
「このような親知らずの抜歯は珍しいことでもないので、どちらでも問題ないかと思います。行きやすい方を選べばよいかと思います」
「抜歯では何度か通うことになるのでしょうか」
「抜歯自体は一時間もあればできるので、一日で終わると思います。ただ、事前の診察や、歯茎を切開することになると思うので抜歯後の抜糸で、もしかしたら二、三回はその病院に行くことになるかもしれません」
切開。
抜糸。
歯科医師は恐ろしい言葉を次々に口にする。
ただ、歯科医師いわく「珍しい治療ではない」とのことなので、何とか自分を落ち着かせた。
「一駅隣の大学病院なら、駅から歩いて5分ほどの距離にあるので行きやすいかと思います」
「そうですか。では、大学病院でお願いします」
「分かりました。今ここで紹介状をお渡しすることはできないので、今週末につくように自宅に郵送いたします。そこに大学病院の受付電話番号も書いておくので、事前に電話をしたほうがいいでしょう」
「分かりました」