S税理士のところでは、挨拶ということで手土産のお菓子を渡したあとはちょっとした世間話をして終わった。
その日の午後は、実家近くにあるL社(不動産会社)に挨拶に行くことになっていた。
その不動産会社の社長はもともと大手の不動産会社に勤めていたのだけど、独立して地元に密着した不動産会社を起業していた。地元に密着しているということで、鳥取の実家周りについても色々と詳しく、またその地元に様々なコネも持っている。いわゆる「地元の不動産会社」といったような会社だった。
昼は近くのイオンのフードコートで簡単に済ませ、一度家に戻ってから、そのL社に向かう。
実家から車で10分もかからないような場所だった。
私が鳥取に最後に帰省した2011年以降に付き合いが始まった不動産会社だったので、父の話の中ではO社長という名前はちょくちょく聞いていたが、実際に会うのは初めてだった。
今もそのL社には鳥取にある駐車場の管理を委託しており、付き合いは続いている。
また、今回売却しようとしている鳥取の実家についても、このL社にも一度話を持ちかけていて売却条件などを提示してもらっているような状況だった。
今後も色々と世話になる可能性が高い。
将来的に父から相続したあとも色々と付き合いが続く可能性も高い。なので、私をそのL社のO社長に一度紹介しておこうと父は考えているようだった。
L社の事務所に入ると、私たち三人は奥の打ち合わせスペースに通された。すぐにO社長が顔を出す。O社長は50歳くらいの、とても人当たりの良さそうな人だった。
父がO社長に、
「息子です」
と私を紹介する。
私は「名刺という程でもないのですが」と言葉をつなぎながら、懐から用意してきた名刺を取り出した。
私は昨年末に企業Bを退職したので、会社名が記載された名刺は持っていない。なので、私の自宅の住所、電話番号、メールアドレスを名刺用台紙に印刷したものを名刺代わりに持ってきていた。
ただ、やはり自分で印刷したものだったので、ひどく安っぽかった。
今後、このような名刺交換の場面なんてほとんど無いのだろうけど、それでもちゃんと印刷会社で印刷してもらった名刺を用意しておいてもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、私は打ち合わせスペースの椅子に座った。